2008年3月6日木曜日

芥川龍之介「一番気乗のする時」

「・・・ことに今時分の鎌倉にゐると、人間は日本人より西洋人の方が冬は高等であるやうな気がする。どうも日本人の貧弱な顔ぢや毛皮の外套の襟へ頤を埋めても埋め栄えはしないやうな気がする。東清鉄道あたりの従業員は、日本人と露西亜人とで冬になるとことにエネルギイの差が目立つといふことをきいてゐるが、今頃の鎌倉を濶歩してゐる西洋人を見るとさうだらうと思ふ。」
 ここにも日本の外での経験らしい経験のない(29歳の時一度だけ上海に行っているが3週間寝込み、その後は坂を転げ落ちるように衰弱していく)龍之介がいる。書物を通してしか「他者」を知らぬ限界が垣間見える。龍之介に「外」での経験をさせたかったと思うのは私だけではないだろう。どんなにかいいものを書いてくれただろうと残念でならない。

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