2011年2月20日日曜日

村上龍の問い
「現在の日本では、「政府には頼らない」という姿勢は重要だと思われます。かなり曖昧な質問になってしまいますが、個人が政府に頼らずに生きるために、もっとも必要とされるものは何なのでしょうか。」
に対して、山崎元が応える。

「たとえば公的年金について考えると、現行の制度が維持されたとしても、将来年金を受け取る世代は受け取る年金の使いでが現在の年金受給世代を大幅に下回る仕組みになっています。加えて、現行の仕組み以上の調整を行わなければ制度自体が維持できなくなる可能性もあり、「政府には頼らない(=頼れない!)」ということの自覚は「逃げ切り世代」未満の国民全てに必要な心構えでしょう。

文字通り「政府に頼らない」ためには、日本国からの精神的な独立や、外国に順応できる言語能力その他の順応性なども必要でしょうが、最も必要なのは、経済的に自立する能力でしょう。

それでは、政府をあてにせずにすむ経済力を持つには、何が一番大切でしょうか。理想的には、政府に全く関係なく、自分にとって十分なお金を稼げるか、十分な資産を持ってるか、という状態を作ることですが、多くの人の政府からの自立を考えると、
「稼ぎ方」よりも、「自分にとって十分」に注目することが現実的だと思います。つまり、生活の合理化に目処をつけて、状況が悪くなったときにも充実した人生を送ることができるようにすることです。「もっとも必要とされるもの」というご質問に対しては、「合理的生活の技術だ」と申し上げましょう。

我々の生活を、高度成長期以前の過去や発展途上の他国と比較すると、現在のわれわれの多くの生活は、彼らよりも豊かですが、同時により大きなコストを掛けています。端的に言って、自分の生活のコストをどれだけ下げることが出来るか、どのよう
な生活レベルと生活スタイルを自分の生活のベンチマークとするかが重要です。これができるとの確信があれば、たとえば、将来予想以上に増税されたり、年金給付が現状の計算以上に削減されるようなことがあるとしても、心配せずに済むでしょう。

生活の大きな不安要因は、「医・職・住」の三つでしょう。先ず、これらに関する態度を決めましょう。

医療については、一人一人が健康に留意することと共に日本の医療保険制度を崩壊させないことが重要です。サービスや商品の内容、コストに大きな情報の非対称性がある医療は民間の保険には馴染みません。医療に関して「アメリカのような国にしない」ことを心掛けるべきでしょう。

雇用の問題は今後も残りそうです。量的レベルの失業問題も残るでしょうし、正社員と非正規社員、高齢者と若者の不当な条件の差も簡単には解消しないでしょう。長期的に、差別を解消し、労働市場の自由度を高める改善が必要です。賃金は、国際的な競争の下で業種によっては実質的に現在よりも、もっと下がるでしょう。自分がどの分野で働くか、何が出来ると有利なのか、どのようにキャリアプラン(職業人生計画)を立てたらいいのか、個人個人が戦略意識を持つ必要があります。

住居のコストが高いことは、日本で生活することの大きな弱点の一つです。個人の置かれた環境(職業や家族や)にもよりますが、住居のコストを下げること、低コストな住居で快適に暮らすことは、重要な「技術」です。経済力から見て過大な負担の住居を購入し、金融機関にも稼がれながら、住宅ローンの奴隷となるような生活スタイルは、それ自体が損であることに加えて、変化に対する対応力も乏しい。

教育も問題ですが、教育に関しては、大人自身の教育も、子供に対する教育も、今後、徹底的にインターネットを利用する学習の技術を磨くべきでしょう。現在、ネットの世界には、世界的に見て優れた教材が増えつつあります。これらの体系的な利用
方法がまだ十分に開発されていないように思えますが、時間と共に体系的な方法が開発され。普及するでしょう。大人が地元で大学院に通ったり、資格試験の講座に通ったり、あるいは子供が塾に通ったりするよりも、ネットを使うと高品質な教育をローコストで得ることが出来るようになるでしょう。

教育、娯楽などに関して、極力インターネットを利用して質を上げつつコストを落とすこと、都会暮らしでは自動車を持たず、生命保険に(民間の医療保険にも)入らず(ある程度の金融資産を作ると不要な場合が多い)、衣料品、家電などは新興国で生産されたローコストな製品を利用し、食事はシステマティックに健康的でローコストな自炊を中心にする、といった具合に、日々の生活コストを下げる技術は、まだまだ工夫の余地がありそうです。あわせて、高価格な商品・サービスの「マーケティング」を「解毒」する知識と心構えも重要です。

私自身は、現在、大変無駄の多い生活をしています。生活を効率化する技術を知り、これを身に着けることを大いに心掛けたいと思っています。

最後に、老若・男女・内外の多様な友人を持って、精神的に「日本」に依存しないで(愛国心の有無とは一応無関係の、依存の有無の問題です)、楽しく暮らせば、「政府に頼る」気分と無縁でいられるように思いますし、自分の生活に自信を持てば、他人に対しても優しくなれるのではないでしょうか。」([JMM623M-3])

このように、極めてまっとうなことを、しかも敵を作ることを恐れずに、発言できる人が本当に少なくなった。

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