2018年11月21日水曜日

初雪と遠き地よりの便りあり

ソフィアは遠くなりにけり。
「初雪と遠き地よりの便りあり」

倉田百三「愛と認識との出発」

秋雲の中を金環の日の出かな

今朝のジョギングは格別に美しいものだった。
「秋雲の中を金環の日の出かな」

2018年11月18日日曜日

風土

人は風土に生きている。
11年間のブルガリア時代はリヒテルのショパンに魅せられていた。ブルガリアに行く前はその甘ったるさが趣味に合わなかったショパンだが、冬のソフィア、凍えるアパートでの毎日の生活の中では、リヒテルの名演により、彼らの中にあるスラブの哀愁、哀しみのようなものが日々の生活に極めて似つかわしく感じられ、その美しさにのめりこんでいたものだ。
そして日本に帰国して2週間。スラブ的なものがまったくと言っていいほど感じられないこの地では、生れてはじめてシューベルトの愛らしい悲しみが心に響くことに驚く。ブルガリアを経験する前の日本時代にもブルガリア時代にもやはりその甘さが好みではなかったシューベルトなのに、日本とブルガリアを経験した今の第2の日本時代の私には、初めてシューベルトが自分の音楽の一部になった感があるのである。その背景には風土そのものだけでなく各々の風土の中に生きる/生きた私自身の存在のあり方が深くかかわっていることは言うまでもない。
もちろんこのシューベルトの場合もリヒテルの演奏でなければならない。

Schubert Klavierstuck D.946 n.2

2018年11月15日木曜日

縮めるは手帳のみとは言ひ聞かせ

無職の身となり大型の手帳は不要となる。
「縮めるは手帳のみとは言ひ聞かせ」

小林多喜二「工場細胞」

Agora日本語読解辞典』において、小林多喜二工場細胞冒頭部分析完了。

2018年11月11日日曜日

のつそりと湖は朝陽を押し出せり

いつものジョギングルート上の古墳から見下ろす。
「のつそりと湖《うみ》は朝陽を押し出せり」

2018年11月10日土曜日

人も樹も動かず雨の肌伝う

晩秋の雨。
「人も樹も動かず雨の肌伝う」

2018年11月9日金曜日

不可思議の不穏な夢に秋深し

これも記憶の整理か。
「不可思議の不穏な夢に秋深し」

2018年11月7日水曜日

し残したことの悪夢に起こさるる

穏かならぬ目覚め。
「し残したことの悪夢に起こさるる」

貨車走る音の向ふに湖の夜

ベランダにて。
「貨車走る音の向ふに湖《うみ》の夜」

2018年11月6日火曜日

目覚めれば泣きはらした眼で外は晴れ

最初の朝。
「目覚めれば泣きはらした眼で外は晴れ」

雨だれのほか地上には音もなき

日本の夜に戻る。
「雨だれのほか地上には音もなき」

2018年11月4日日曜日

荷造りは下弦の月に見守られ

夜明け前の最終準備。
「荷造りは下弦の月に見守られ」

君のこと落ち葉はらはら忘れない

忘れてはいけない。
「君のこと落ち葉はらはら忘れない」

ゆく秋の最後の空に星一つ

ブルガリアでの11年が終わる。
「ゆく秋の最後の空に星一つ」

2018年11月2日金曜日