これまでは、バチカンに行くと城壁外に必ずロマ系の人々のものもらい・スリ・かっぱらいを見たものだった。
2007年末。今回は違う光景に出会った。
城壁外の歩道の縁に座って本を読んでいたときのこと。
アフリカ系の若者たちが城壁に沿って木箱や段ボール箱を置き、その上に安物のかばんや時計を並べている。
ところが、こういう場面でよく見られる、前を行く観光客に一生懸命売りつけようとする姿勢がない。むしろ、品定めする観光客の肩越しに、おどおどと、何かを探しているような視線の動きをしている者が多いことを訝しく思っていた。
すると、しばらくして、けたたましいサイレンと共に一台のパトカーがどこからか突っ込んできて、急停車。サイレンを鳴らしてくるのだから、その時には既に若者たちは商品を畳んで(小型のスーツケースのようなものに商品をゴムなどで留めているから、バタンとかばんを閉めればそれで終わり)、一目散に路地路地へと逃げて行った後である。一人などは「Permesso(すみません)!」と言いながら僕を飛び越えるように走り抜けて裏の路地へと逃げ去っていた。
そして、「急襲」したはずのパトカーからは、ゆっくりと、恐ろしくゆっくりと、二人の警官が降りてくる。そして、上の写真のように若者たちが残していった「陳列棚」等を、これまたゆっくりとトランクに積み込んで、去っていく。
そして、ご想像通り、警官が去った2分後には、全く元通りの光景が復活する。いや、警官の「押収」中から、すでに物陰で若者たちは新しい「陳列棚」を抱えて、警官の去るのを待っていたのである。
そして、これまたご想像通り、10分後には同じパトカーの「急襲」が展開する。
私は1時間ほど歩道に座り込んでいたのだが、それが数度繰り返された。当然私はいろいろなことを考えることになる。もう読書どころではない。
警察が本気で摘発するつもりなら、大部隊を動員する、わざわざサイレンを鳴らしながら来ない、それに、何よりも、裏の路地で若者たちに次から次へと「陳列台」や商品を供給し続けているはずの元締めを押さえにかかるだろう。
結論はこうである。
売り上げよりも「捕まらない」事の方が遥かに重要(捕まったとなればあとは命がけで脱出した筈の故郷への強制送還しか残っていない)な若者たちと、下っ端の警官(捕まえたら仕事が増えるという事情もあれば若者たちへの「同情」のような感情もあるのではなかろうか)たちとの間には「演劇関係」のようなものが暗黙のうちに成立しているらしい。
ぼくは、何か温まったような気持ちになり、尻の泥を払いながら立ち上がる。
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