2008年6月11日水曜日

夏目漱石『それから』

「其上彼は、現代の日本に特有なる一種の不安に襲はれ出した。其不安は人と人との間に信仰がない源因から起る野蛮程度の現象であつた。彼は此心的現象のために甚しき動揺を感じた。彼は神に信仰を置く事を喜ばぬ人であつた。又頭脳の人として、神に信仰を置く事の出来ぬ性質であつた。けれども、相互に信仰を有するものは、神に依頼するの必要がないと信じてゐた。相互が疑ひ合ふときの苦しみを解脱する為めに、神は始めて存在の権利を有するものと解釈してゐた。だから、神のある国では、人が嘘を吐くものと極めた。然し今の日本は、神にも人にも信仰のない国柄であるといふ事を発見した。」
漱石の見抜いたこの日本のこの面は今も変化していないと思う。

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