2008年6月6日金曜日

芥川龍之介「世の中と女」

 女性の社会進出に関して彼は次のように言う。
 「又世の中の仕事に関与するとなると、女に必然に女らしさを失ふやうに思ふ人がある。が、私はさうは思はない。成程、在来の女らしい型は壊れるかも知れない。しかし、女らしさそのものは無くならない筈だ。
 かう云ふ例を使つては女性に失礼かも知れないけれども、狼は人間に飼はれると犬になるには違ひない。しかし、猫にならないことは確である。在来の女の型は失つても、女らしさは失はれないことは、猶、犬が泥棒を見ると食ひ付くやうなものであるだらうと思ふ。 しかし、これは大義名分の上に立つた議論である。もし夫れ私一人の好みを云へば、やはり、犬よりは狼が可い。子供を育てたり裁縫したりする優しい牝の白狼が可い。」

 家庭に留まらず社会に出て職業を持つ女性が「犬」に譬えられ、そうでない女性は「子どもを育てたり裁縫したりする優しい牝の白狼」だと言う。これは仕事を持つ女性に対する現代日本におけるイメージとはむしろ逆のイメージではないだろうか。大正十年当時の社会に一般的な捉え方なのか、龍之介独自の見方なのか。興味深い。

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