2018年8月23日木曜日

「煙突の見える場所」五所平之助(1953)

椎名麟三の原作を読んでいないのでどこからどこまでが五所のオリジナルなのかは定かではないが、まず印象に残るのは「明るさ」である。悲しく、みじめで、なさけない人物やエピソードが次から次へと出てくる筋立てであるにもかかわらず、一種のコミカルで前向きな雰囲気が全編を貫く。それには、音楽をはじめとする種々の「音」の効果的な使い方、脇役陣の一人ひとりまで選び抜かれたキャストの演技力、片足を引きずりながら土手を歩く女たち(すれ違う跛行の女も含む)をはじめとする印象的なシーンの数々、など様々な要素が複合的に貢献している。そして、もくもくと煙を上げ続ける煙突、赤ん坊、前向きに生きる二人の男女、などの、未来や生産を象徴する要素がちりばめられていること、そして何よりも敗戦から立ち直り日本再生へと離陸する直前の日本社会全体に胚胎していたエネルギーのようなものがその明るさを生み出しているのだろう。
この年は「東京物語」「雨月物語」という世界映画史上に残る名作も出ている。それと同時にこのような作品も生み出すことのできる五所のような監督も活躍した、やはりこの時代は日本映画の黄金時代だったのだ。

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