2007年11月26日月曜日

辻邦生『背教者ユリアヌス』

 読了。
 古代歴史地図帳を傍らに置き、ユリアヌスと共に、ガリアからメソポタミアまでの広大なローマ帝国内を旅した三週間であった。
 自分がローマ帝国に強い関心を持っていること、ユリアヌスが駆け抜けた地域にいま自分が住んでいること、情緒的な人よりは知的な作家を自分が好むこと、等を差し引いて考えようとしても、この作品への私の評価はほとんど損なわれることはない。
 ひょっとしたら、二千年後、「自民族中心主義」や「国境」などが考古学の研究対象となり、叙事詩とは「自民族」の英雄しか扱うことの許されぬジャンルであるというようなちっぽけな考え方が跡形もなく消え去った頃、ユーラシア大陸の東端において日本語という言語で書かれた文学の筆頭にこの作品は置かれることになるのではないか。そこまで大胆な物言いを許すほどの普遍性をこの作品は確かな手応えとして持つ。
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 はじめは手放しで褒めておいて、そのうち次々と粗が見えてきて、最後に後悔して終わる、という軽率さが、これまで何度苦杯をなめたか分からぬ私の大きな欠点の一つである。どなたか実際にこの作品を読んで、私の目を覚まさせてくれるような批判をいただきたい。

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